業界を跨ぐ経営者がネガティブに取られる理由

日本でいわゆるプロの経営者市場が育たない2つの大きな理由がある。
ちなみにここでは、プロの経営者とは、業界に関係なく、会社から会社へ移り変わる経営者のことを指す。食品会社を経営していた人が、ある日突然、電機メーカーの経営をするといったことである。もちろん経営者の役割を果たすという点においては、どこも同じで特段の違いがあるわけではない。
その2つの理由とは、
①業界での経験や知見がないと経営ができない、あるいは現場の声が理解できない
②外様としての立場の人に、「この会社」での経験がないと経営ができない
と考えられているからである。

では、業界での経験や知見がないと何が困るのか?
従業員、取引先、得意先、債権者(特に銀行)の不信感、経営者本人の業界慣行への不慣れさから来る意思決定のミス、業界での技術自体、あるいはその方向性への無理解などが業界の知見がないことのハンディとしてあげられる。

しかし、この課題の解決策は経営者がいかに従業員を味方に付けるかの一点に集約される。経営者自身が従業員から業界のことを学ぶことは十分可能である。それは現場のこともしかりである。従業員は業界と現場のことを熟知している。いやむしろ経営者以上に足元の業界の状況を知っているのは従業員に他ならない。

では、その生え抜きの経営者でいいではないか?という話になるが、それはそうではない。生え抜きの経営者は業界のことはよく知っている。しかし、経営をしているかどうかは別の問題であるからである。業界の経験が豊富な経営者は従業員にとって話が早く、ありがたい存在であるが、実は会社をちゃんと経営する経営者のほうがもっと重要であるということなのである。(あたりまえであるが)

結論を言えば、業界のことを知っていることと経営をうまくやるということには直接的な因果関係というのはほとんど成り立たない。これは業界一筋で業績を残してきた経営者を否定する考えではない。つまり経営者がうまく経営を行うときに、「この経営者は業界をよく知っているからうまく経営している」という理由はまず出てこない。成功要因の中の要素としては、小さすぎるのである。

業界を知っているということであれば、アナリストのほうがよく知っている。ただ、彼らは経営にあたるのに必要な経験やスキルを持ち合わせない。業界慣行ということであれば、従業員の方がよく知っている。ましてや文科系の社長など技術のことは知らない。

業界生え抜きで経営できる社長がどんどん出てこればいいが、そもそもそんな準備をしてきた会社は多くない。経営者市場が求められるのは、そういう会社が多かったことの証左でもある。