外注して失うもの

3ヶ月ほど前、とある分譲マンション業者の事業力評価のため経営層へのヒアリングと現場視察を行った時の話。
この企業の特徴は、用地仕入⇒企画⇒設計⇒施工⇒販売⇒物件管理まで自社で一気通貫して行うという分譲マンション業界では稀な事業モデルを持っていること。

コスト構造について紐解いていくと、通常、現場でコンクリート注入して作るはずの外壁パネルを自社所有の工場で作って現場に運び組み立てている業務形態をとっており、その結果、工期の大幅短縮によるコスト削減を実現、坪単価他社比で大きな値引き余力、コスト競争力を持つことができるようになったことがわかった。ただ、これは40年近くに亘り洗練させてきた業務のあり方で、非常に長期の時間を要している。

一方で、ヒアリング訪問前の打ち合わせで評価の焦点になるとされたのは、この会社が「なぜ外注をしないのか?」ということだ。この会社の答えは、「責任感」だった。
外注することで、自社社員の責任感が失われる、という意識。「外注先がやっていないから遅れている、上手くいかなかった」という他責の雰囲気が醸成されることを社長が危惧しているようだった。

ヒアリング後、なぜ他社がやらない内製化にこだわるのか?と改めて自問自答。
「分譲マンションというという人生史上最高額の買い物=買い手の不安が最も大きい」という本質的な顧客側の都合があり、自社ですべての面倒を迅速にみることのできる、最も不安を極小化できる(かもしれない)内製化を進めてきたのかもしれない。

外注する、相応する業務が自社の外に出るということは、大げさに言えば「業務の断裂面」ができてしまうことも意味する。
自社の企画意図、担当者同士の連絡、外注業務の先端情報、納期連絡などきりがない。業務全体への「責任感」と外注業務の「情報感度」を失い、「外注先の都合」を抱え込む、そして、何よりお客さんの持つ「不安を払拭するのに業務上時間」がかかる、そんな分譲マンション業界における外注のデメリットの一部が浮かんできた。

「なぜ外注するのか?なぜ内製するのか?」
どのような会社でも直面する経営課題。昨今、外注先のいいかげんさから起きた事件も多い中で、内製、外注共にそのメリット、デメリットの両面がありながら、「会社としての責任感」という観点で一気通貫の事業モデルに拘るこの会社をみて、外注、内製を考えるときの評価軸について考えさせられた。