忘れたくないことだけを記憶できれば?

人は意識しようとしまいと肉体的な死が来ることは頭の上では知っている。本能的にはその怖さも知っている。
ただ、肉体的な死よりも精神的な死が先に訪れるということの怖さは意識したことさえない。
常に肉体的な死=精神的な死という前提があるから。だから世の中に自殺という行為が成立する。
作中では「精神的な死」とは、すべての記憶の喪失。
トイレに行くという行為さえ記憶があるという前提が必要なんだという場面も。
つまり、日常の行為は記憶から成り立っている。
作中にあった「許すとは心の部屋を一つ空けてあげること」というセリフ。
言ってみれば、許すという行為も、過去の記憶(自分を捨てた母への怒り)に「違った解釈」を与えること。そしてそれはあくまでも記憶があることが前提だ。
主人公の記憶にハッピーなものがあまりにも多いからこそ、実に悲しすぎる物語。